電気工事における「リスクアセスメント」とは?
電気工事は、感電・墜落・火災など、わずかな判断ミスが重大事故につながる高リスクな作業です。
そのため、現場では事前に危険を見える化して管理する「リスクアセスメント」が求められています。
リスクアセスメントとは、作業前に潜在的な危険を洗い出し、発生確率と被害の大きさを分析し、適切な対策を講じる手法です。
つまり、「事故を未然に防ぐための科学的な安全管理プロセス」といえます。
この手法は、単なるチェックリスト作業ではなく、現場の作業工程・環境・設備を多角的に評価してリスクを最小化する体系的な安全戦略です。
安全性を確保することで、作業効率や品質の向上、企業の信頼性向上にも直結します。
そもそもリスクアセスメントの目的とは
リスクアセスメントの目的は、「危険をなくすこと」ではなく、危険を許容可能なレベルまで低減することにあります。
人間の作業が関わる以上、リスクを完全にゼロにすることは不可能です。
したがって、重要なのは「どの危険をどのようにコントロールするか」という視点です。
リスクアセスメントの主な目的を整理すると、次の通りです。
【リスクアセスメントの目的】
・ 潜在的な危険源を体系的に把握すること
・ 災害の発生確率と重篤度を定量的に評価すること
・ リスクを比較し、優先順位をつけて対策を講じること
・ 現場、管理者、経営者が共通の安全認識を持つこと
・ 継続的に改善し、安全文化を育てること
また、リスクアセスメントは「予防安全」の考え方に基づいています。
事故が起きてから対策する「事後対応型」ではなく、起きる前に防ぐ「事前予防型」の安全管理が、電気工事において特に重要です。
電気工事における主なリスク要因(感電・墜落・火災など)
電気工事では、他業種と比べて死亡・重傷に直結するリスクが多く存在します。
特に代表的なのが、感電・墜落・火災の3大リスクです。
【電気工事における主なリスク要因と対策の方向性】
| リスク要因 | 主な原因 | 想定される被害 | 対策の方向性 |
|---|---|---|---|
| 感電 | 通電中作業・絶縁不良・漏電 | 死亡・火傷 | 無電確認・絶縁工具・漏電遮断器 |
| 墜落 | 高所作業・脚立転倒・足場不安定 | 骨折・頭部外傷 | 安全帯・足場固定・2人作業 |
| 火災 | 溶接火花・短絡・被覆損傷 | 建物損壊・延焼 | 可燃物除去・防火シート設置 |
これらのリスクは、作業内容・環境条件・工具管理・人の行動要因などが複合的に絡み合って発生します。
たとえば、狭い盤内での作業中に絶縁手袋を外して作業を続けたことで感電事故が起きるケースもあります。
また、脚立を使った照明交換時の一瞬のバランス崩れが、重大な墜落災害を引き起こすこともあります。
こうした危険要因を「見える化」し、評価・対策するのがリスクアセスメントの役割です。
現場では、危険源の特定 → リスク評価 → 低減策の実施 → 改善というプロセスを繰り返すことが重要です。
リスクアセスメントを行う法律上の背景(労働安全衛生法・指針)
リスクアセスメントは、単なる自主的な取り組みではなく、法律で定められた安全管理義務です。
日本では、労働安全衛生法第28条の2において、事業者に対し「危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)」が義務付けられています。
また、厚生労働省が公表している「危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成18年告示第24号)」では、リスクアセスメントの具体的な進め方が示されています。
【法的背景の要点】
・ 対象:すべての業種(電気工事を含む建設業も対象)
・ 目的:労働災害の未然防止や安全衛生水準の向上
・ 実施義務:危険性や有害性が新たに発生した際に評価や対策を行う
特に電気工事は、感電・高所・火災などの重篤リスクが多い職種のため、リスクアセスメントを安全管理計画や施工計画書に組み込むことが必須です。
さらに、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)やISO45001では、リスクアセスメントを基盤としたPDCAサイクルによる継続的改善が求められています。
このように、リスクアセスメントは法令遵守・安全確保・企業信頼性向上の三位一体を実現する要となる仕組みなのです。
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電気工事におけるリスクアセスメントの実施手順
電気工事のリスクアセスメントを効果的に行うには、体系的な手順に基づいて進めることが重要です。
単なる感覚的な危険予知ではなく、科学的かつ定量的にリスクを把握し、優先順位を明確化するプロセスが求められます。
実務では、次の4つのステップに沿って実施するのが基本です。
1. 危険源の特定(作業・設備・環境別)
まず最初に行うのが、「どこに・どんな危険が潜んでいるか」を洗い出す作業です。
これはリスクアセスメントの出発点であり、見落としが1つでもあれば重大事故につながるため、最も重要な工程です。
危険源は、以下の3つの観点で分類して整理します。
【危険源特定の分類例】
| 区分 | 主な危険源 | 具体的な例 |
|---|---|---|
| 作業別 | 配線・接続・盤内作業 | 通電中の誤接続、狭所での姿勢不良 |
| 設備別 | 電動工具・脚立・ケーブル | 絶縁不良、転倒、断線 |
| 環境別 | 高温・暗所・屋外作業 | 熱中症、照度不足、風雨による滑落 |
危険源の特定では、「作業内容・場所・使用機材・作業者の動作」という4要素を基準に観察します。
特に電気工事では、“無意識の危険行動”(例:脚立の上段作業・手袋未着用など)が事故の引き金になるため、
現場経験者の意見を反映したヒアリング形式が有効です。
2. リスクの見積り(頻度×重篤度)
危険源を洗い出したら、次に行うのが「リスクの大きさを定量的に見積もる」段階です。
これは発生頻度(Frequency)と重篤度(Severity)を掛け合わせて算出します。
【リスク見積りの評価基準】
| 区分 | 評価内容 | 点数例 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 発生頻度(F) | 起こる可能性の高さ | 1(まれ)〜5(頻繁) | 毎日行う高所配線=4 |
| 重篤度(S) | 被害の深刻さ | 1(軽微)〜5(致命的) | 感電による死亡=5 |
計算式:リスク値(R)= F × S
たとえば、「屋外高所での照明交換作業(F=4)」で、「墜落時に骨折・死亡の恐れがある(S=5)」場合、R=4×5=20 となり、高リスク(最優先対策対象)として分類されます。
この段階で重要なのは、主観ではなく客観的データで判断することです。
可能であれば、過去の労災データ・ヒヤリハット報告・統計資料を基準に採点します。
3. リスクの評価と優先順位付け
算出したリスク値をもとに、「どのリスクから対策すべきか」を明確化します。
電気工事では、時間・人員・コストに限りがあるため、リスクの優先度を設定して効率的に管理する必要があります。
【リスク評価の優先度基準】
| リスク値 | レベル | 対応方針 |
|---|---|---|
| 16〜25 | 高(重大) | 即時対策・作業中止検討 |
| 9〜15 | 中(要注意) | 対策計画を立案・短期改善 |
| 1〜8 | 低(許容範囲) | 継続監視・教育重点化 |
高リスク項目は、作業方法の見直しや設備改善を早急に実施しなければなりません。
中程度リスクは、定期的な教育や管理強化でリスク低減を図ります。
低リスクであっても、定期的に再評価を行い、環境変化に応じて見直す姿勢が大切です。
また、リスク評価を色分けマトリクス(例:赤=高、黄=中、緑=低)で可視化すると、現場担当者・監督者・経営層の間での共通認識が生まれやすくなります。
4. リスク低減措置(代替・隔離・防護具など)
最後のステップでは、評価結果を踏まえて具体的なリスク低減策を講じます。
電気工事におけるリスクコントロールは、以下の4段階ヒエラルキー(優先順位)で進めます。
【リスク低減の優先順位】
1. 除去(Elimination):危険を伴う作業自体をやめる
例:通電中の作業を停止し、必ず無電状態で実施する
2. 代替(Substitution):危険度の低い方法・材料に変更
例:絶縁性能の高い工具やケーブルに切り替える
3. 隔離・工学的対策(Engineering Controls):危険源から人を隔てる
例:防護カバー設置・感電防止柵・接近警報システム導入
4. 防護具・管理的対策(PPE / Administrative Controls):作業者に防護具を着用させ、作業手順を管理
例:絶縁手袋・安全帯・安全靴・ヘルメットの徹底着用
このように、「まず危険をなくす」「次に隔離する」「最後に防ぐ」という順序が基本原則です。
よくある誤解として、「防護具を着ければ安全」という考え方がありますが、本来PPE(個人用防護具)は最終手段であり、工学的・設計的な対策が最優先です。
また、リスク低減措置を実施した後は、必ず効果検証と再評価(フィードバック)を行い、PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)を回すことで、安全水準を持続的に高めることができます。

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