電気工事

2024.09.11

店舗の電気工事はなぜ重要?照明・厨房・通信まで支えるインフラ

 

店舗における電気工事とは?

店舗運営の根幹を支える「見えないインフラ工事」

店舗における電気工事とは、店舗内外のあらゆる電気設備を安全かつ効率的に機能させるための配線・設置・調整工事のことです

一見、内装の仕上がりやインテリアの配置が目を引きますが、実はその裏側で働いているのが「電気工事」です

たとえば、店舗の照明演出や冷暖房の稼働、POSレジの動作、音響システムや防犯カメラの稼働まで、すべては適切に構成された電気工事によって成り立っています。

1つでも欠けると営業ができない

店舗電気工事の対象となる設備には、以下のようなものが含まれます。

【店舗で必要な主な電気設備】

・ 照明設備(天井照明、間接照明、スポットライトなど)

・ 空調機器(エアコン、換気扇、空気清浄機)

・ 厨房機器(オーブン、冷蔵庫、IH機器など)

・ 情報機器(POSレジ、Wi-Fiルーター、LAN配線)

・ 防犯設備(監視カメラ、人感センサー、セキュリティアラーム)

・ 音響・映像機器(BGM機器、ディスプレイ)

・ 外部照明(看板や店頭の照明)

・ 法令設備(非常灯、避難誘導灯、火災報知器など)

このように店舗では、電源を必要とする設備が非常に多岐にわたるため、電気工事の質が店舗の稼働性・安全性・集客性すべてに影響を与えます。

たとえば照明の設計が不適切であれば、商品が暗く見えてしまったり、空間が重く感じられたりして、顧客の滞在時間や購買意欲にまで悪影響を及ぼすこともあります。

また、厨房設備や冷蔵機器の電力が足りなければ、ブレーカーが頻繁に落ちる、火災リスクが高まる、業務効率が下がるなど、深刻なトラブルの原因にもなりかねません。

一般住宅と店舗の電気工事はまったく異なる

電気工事というと、一般住宅のコンセントや照明の取り付けといったイメージを持つ方が多いですが、店舗の電気工事はそれとは比べものにならないほど専門性が高く、規模も大きいのが特徴です。

【住宅電気工事と店舗電気工事の違い】

項目住宅電気工事店舗電気工事
電力の使用量少なめ(家電中心)多め(業務用機器多数)
必要な電気容量30A~60A程度が多い100A以上・動力(200V)必要なケースも多い
設備数限定的(照明・コンセント中心)多岐にわたる(厨房・照明・LAN・空調など)
法令対応一部(防火設備など)消防法・建築基準法などの制約が厳しい
施工業者の専門性一般の電気工事士で対応可能な範囲商業施設対応可能な業者が必要

 

このように、店舗の電気工事は“施工”というより“設計と構築”に近い性質を持っており、施工前からの綿密な打ち合わせと電気設計が求められます。

工事範囲は「設計・配線・設置・検査」まで含む

店舗電気工事は大きく以下の4つの工程に分類されます。

【電気工事の基本工程】

1. 設計・図面作成:店舗のレイアウト・業態に応じた配線計画や容量設計

2. 配線・配管工事:天井裏・壁内・床下へのケーブル敷設

3. 機器設置工事:照明・空調・通信・防犯機器の取り付けと接続

4. 動作確認・検査:通電試験・消防設備点検・電気保安協会の検査対応など

つまり、電気工事とひとことで言っても、その内容は高度な技術と法的知識、安全管理能力を要求される専門的な業務の連続です。

開業の成否は電気工事で決まることもある

店舗の開業準備において、内装や看板のデザインと同じくらい重要なのが、電気設備の品質と安定性です。

なぜなら、電気に関するトラブルが発生すれば、たとえば…

・ 営業中に冷蔵機器が停止し、在庫食材が全損する

・ 照明の不具合で、営業停止を余儀なくされる

・ 消防点検に通らず、オープンが延期になる

こうした致命的なリスクに直結するからです。

だからこそ、電気工事は「内装の一部」ではなく、店舗経営の土台そのものを支える存在と捉えるべきです。

 

このように、店舗における電気工事は単なる設備設置ではなく、営業の成否を左右する重要なインフラ整備であることがご理解いただけるかと思います

 

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店舗の電気工事とテナントの電気工事って違うの?

同じ「電気工事」でもまったく違う対象と責任範囲

店舗の開業や改装を考える際、多くの方が混同しやすいのが「店舗の電気工事」と「テナントの電気工事」の違いです。

どちらも“電気を扱う工事”であることは共通していますが、対象となる範囲・責任の所在・目的・工事のタイミングがまったく異なります。

この違いを正しく理解しないまま工事を進めると、「この工事は誰の責任?」「費用は誰が負担する?」といったトラブルの原因になってしまう恐れがあります。

店舗の電気工事=店舗オーナーが行う「内部工事」

「店舗の電気工事」とは、実際に営業を行うために必要となる設備の電源供給・配線・設置を行う工事です

具体的には以下のような作業が該当します。

【店舗の電気工事の例】

・ 照明設備の設置(スポットライト、間接照明、ダウンライトなど)

・ コンセントやスイッチ類の配置と増設

・ POSレジやディスプレイへの電源供給

・ 業務用冷蔵庫や厨房機器への200V動力配線

・ BGM機器、防犯カメラ、Wi-Fiルーターなどの弱電工事

・ 看板照明や外部照明の設置配線

・ 非常灯や誘導灯の消防対応配線

これらは店舗の内装やレイアウトに合わせて計画されるものであり、基本的にはテナント契約を結んだテナント側(店舗オーナー)が自己負担で発注・実施するのが一般的です。

また、工事の自由度は「テナント規約」や「共用部との接点」によって制限されることもあります。

テナントの電気工事=建物オーナーや管理会社が行う「基盤工事」

一方で「テナントの電気工事」は、建物の電気インフラ整備や共有設備に関わる工事を意味します

こちらは建物のオーナーや管理会社が主体となって行い、個々のテナントが契約を結ぶ以前に行われているケースがほとんどです。

【テナント電気工事の例】

・ テナント区画ごとの幹線引き込み工事(分電盤まで)

・ 主幹ブレーカーや動力電源設備の設置

・ 共用照明、エレベーター、空調システムの配電

・ 非常用発電機、避雷針、受変電設備の設置

・ メーター設置や電力契約区分の設定

この工事は、テナントが入居するための基盤を整えるために不可欠であり、主に建物側の資産として管理されています。

中には「区画内の分電盤までは建物オーナー負担、そこから先はテナント負担」と明記されていることもあり、契約書の確認が非常に重要です。

2つの電気工事の違いを表で整理

以下に、「店舗電気工事」と「テナント電気工事」の違いをわかりやすく表にまとめました。

【店舗電気工事とテナント電気工事の違い】

比較項目店舗の電気工事テナントの電気工事
工事の主体テナント(店舗オーナー)建物オーナー・管理会社
工事の目的店舗の営業に必要な設備を機能させるテナント区画に電気を供給するための基礎整備
主な工事内容照明・コンセント・厨房・弱電・看板など幹線・分電盤・主幹ブレーカー・共用設備など
工事タイミングテナント入居後、内装工事と並行して行われることが多い建物新築時やテナント区画の整備段階で行われる
費用の負担者原則テナントが負担原則オーナーまたは管理会社が負担

トラブルを防ぐためには「契約前の確認」が重要

実務の現場では、「どこまでが自分たちで手配すべき電気工事なのか?」「既存の電気容量で足りるのか?」といった点が明確でないまま工事が始まり、追加工事費が発生したり、オープンが遅延したりするケースが少なくありません。

特に注意すべきポイントは以下の通りです。

【契約前に確認すべき事項】

・ テナント区画に電源は引き込まれているか?

・ 動力(200V)設備は利用できるか?

・ 容量変更やメーター追加には申請が必要か?

・ 分電盤の設置場所と仕様はどうなっているか?

・ 消防設備(非常灯や感知器)工事の責任区分は?

これらは、オーナー側との取り決めやビル管理規約によって異なるため、事前確認が欠かせません。

専門の電気工事業者に現地調査を依頼し、契約前の「電気設備調査報告書」をもとに見積・設計を組むことで、無駄のない工事計画が可能になります。

 

このように、「店舗の電気工事」と「テナントの電気工事」は似て非なるものであり、役割・費用負担・実施者が明確に異なります

オープン準備を円滑に進めるためには、両者の違いを理解したうえで、事前の情報収集と契約内容の確認を丁寧に行うことが最も重要なポイントになります

次のセクションでは、実際にどのような電気工事が内装と関係するのかについて、さらに詳しく見ていきましょう。

 

 

電気工事の種類などについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご確認ください

電気工事ってどんな仕事?安全で効率的な電力供給を支える職種

 

店舗の内装に関わる電気工事って何があるの?

店舗空間の機能と魅力を生み出す「電気工事の全体像」

店舗における電気工事の中でも、内装と密接に関わる部分は、営業活動の成否に直結する重要なポイントです

たとえば「明るさ」ひとつとっても、照明の種類・光の色温度・配置位置などの工夫により、空間の印象やお客様の滞在時間が大きく変わるのです。

そのため、内装工事と連携した電気工事では、単に配線するだけでなく、「売れる店づくり」の視点から設計を行うことが求められます。

照明・空調・電源だけじゃない!店舗電気工事の主な内容とは?

店舗内装と連動して行われる電気工事には、次のような工事項目があります。

【内装に関係する主な店舗電気工事項目とその目的】

工事内容主な目的・役割
照明設備工事商品の魅力を引き立て、空間の雰囲気を演出(スポットライト、間接照明など)
電源配線・コンセント設置冷蔵庫・レジ・ディスプレイ・掃除機などの電力供給
空調設備の電源配線エアコン・換気扇・加湿器などの設置に伴う専用回路の設置
通信・LAN・Wi-Fi配線POSレジ、ネット環境、防犯カメラなどの通信インフラ整備
看板・ファサード照明店外からの視認性を高め、集客力をアップさせる
弱電工事(BGM・セキュリティ)音響設備、スピーカー、防犯センサー、モニター、インターホンなどの設置
非常用照明・誘導灯の設置消防法・建築基準法に基づく安全対策(営業許可取得の必須条件)

 

これらの工事を適切に実施するためには、「どの設備を、どこに、どれだけ使うのか」という具体的な計画を工事前に立てることが何よりも重要です。

たとえば、冷蔵庫や業務用製氷機を導入する場合、単独回路や200V電源が必要な場合があるため、事前の設計ミスが後々の営業に支障をきたすことになります。

店舗の印象を決める「照明工事」は空間演出の命

なかでも特に重要なのが照明工事です。

店舗の照明は、「明るければ良い」というわけではなく、売りたい商品の特徴、空間全体の雰囲気、客層のターゲットによって最適な設計が異なります。

【照明の種類と用途例】

・ スポットライト:アパレル商品やアクセサリーなどの「注目アイテム」の照射に最適

・ ダウンライト:天井からの柔らかい光で「落ち着いた空間」を演出

・ 間接照明:壁や天井を照らして「高級感」や「奥行き」を演出する

・ 昼白色LED照明:調理スペースや作業スペースで「手元の明るさ」を確保

・ 電球色LED照明:カフェやバーで「暖かくリラックスした印象」を与える

こうした照明器具の選定や配置は、電気工事の段階で配線や回路を確保しなければならないため、内装設計と同時進行で計画を立てることが必須です。

機器配置が配線を左右する!レイアウトと電源の関係

電気工事の現場では、「レジカウンターの位置が変更になった」「冷蔵庫を壁際から中央へ移動した」といったレイアウトの変更が後から生じることもあります。

しかし、配線工事は天井裏・壁中・床下などに施されており、工事後に大幅な移動があると、追加工事や二重施工が必要になり、コストも工期も膨らんでしまいます。

そのため、以下のような手順が理想的です。

【電気工事を内装と連動させるための手順】

1. 設備機器の配置を確定する(厨房・レジ・ディスプレイなど)

2. 必要な電力容量と電圧(100V/200V)の洗い出し

3. スイッチやコンセントの設置位置を図面上に記入

4. 照明・空調・弱電のルートを決定

5. 上記を元に電気工事業者と配線計画を調整・着工

このように、内装工事との連携を前提にした電気設計と施工を行うことで、トラブルや無駄な費用を最小限に抑えることが可能になります。

弱電・通信配線も見落とし厳禁!

最近では、クラウド型POSレジや防犯カメラ、スマート照明などのIoT機器の導入も増えています。

これらは「強電」(照明・空調などの高電力設備)とは異なり、LAN・電話・同軸ケーブルなどの「弱電工事」が必要になります。

特に通信機器は、電源と通信線のルートが交差するとノイズが発生することがあるため、施工には高度な設計知識が求められます。

内装工事の中で見えにくい部分ですが、これらの弱電設備が正常に動作しなければ、会計も通信も機能せず、営業自体が不可能になってしまう恐れがあります。

 

このように、「内装に関わる電気工事」といっても、その内容は単なる電源設置にとどまらず、店舗の空間演出・設備の運用・法令遵守・情報通信インフラまで多岐にわたるのです

次のセクションでは、「内装工事と電気工事を別々に依頼するべきか?」という悩みについて、実務的な観点から詳しく解説してまいります。

 

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内装工事と電気工事って別々で依頼した方がいいの?

一括依頼と分離発注、それぞれのメリットとリスクを正しく知る

店舗を新しく開業する際やリニューアルする場合、多くの方が悩むのが「内装工事と電気工事は一括で依頼したほうがいいのか、それとも別々に依頼するべきか?」という点です。

実際、どちらの方法にもメリットとデメリットがあり、業態や規模、工期、予算、そして発注者自身の経験値によって適した方法は異なります

この章では、実務的な観点から「一括依頼」と「分離発注」の違いと判断基準を明確に整理し、後悔のない選択ができるよう解説します。

一括依頼のメリットとデメリット

工事全体の管理が一本化されてスムーズ

内装業者に対して、電気工事を含めたパッケージで一括発注する方法は、特に店舗開業が初めての方や、工事管理に不安がある方にとって大きなメリットがあります

【一括発注の主なメリット】

・ スケジュール管理が一本化されるため、連絡の手間が少ない

・ 工程のズレが起きにくく、施工ミスや作業待ちが減る

・ 見積もりがパッケージ化されるため、コスト全体が把握しやすい

・ 完成後の不具合に対する窓口が一元化される

たとえば、「レジ周りのカウンターを内装業者が設置→そのまま電気工事業者がコンセントを取り付ける」といった連携がスムーズに行えるため、工事進行の中で生じやすい“連絡ミス”や“工程の食い違い”が起こりにくいという特徴があります。

一方で、一括依頼には以下のようなリスクも存在します。

【一括発注の主なデメリット】

・ 電気工事の内容が内装業者主導になるため、柔軟性が低くなることがある

・ 専門性が高い工事(高圧設備や特殊機器)は外注が重なるため、中間マージンが発生しやすい

・ 見積の内訳が不明瞭になるケースがある(電気工事費が一式扱い)

特に飲食店や理美容室など、業務用の厨房機器やドライヤーなど高出力の機器が多い業種では、後から追加の専用回路が必要になり、追加費用や工期の延長が発生するリスクもあるため注意が必要です。

分離発注のメリットとデメリット

専門性の高い業者を選べる、コストと品質の透明性が魅力

「分離発注」とは、内装工事業者とは別に、電気工事を専門業者へ個別に依頼する方法です

この方法は、特に以下のようなケースに適しています。

【分離発注が適しているケース】

・ 自社で信頼している電気工事業者がいる

・ 業務用設備が多く、電源仕様や容量設定が複雑

・ 相見積もりを取りながらコスト管理を重視したい

・ IoT機器やIT設備が多く、専門知識を要する弱電工事がある

【分離発注の主なメリットとデメリット】

項目メリットデメリット
コスト中間マージンを排除し、コスト削減しやすい工事項目ごとに費用が発生し、合算管理が煩雑になる
専門性経験豊富な電気業者を選べるため、特殊機器や高負荷機器の対応が安心調整不足で他業者との連携ミスが起きる可能性
工期管理自社で工程を調整できれば柔軟なスケジュール設定が可能工事日程や進捗の把握・調整を自ら行う必要がある
品質・自由度回路設計・容量設定・スイッチ類の仕様まで細かく相談できる調整の負担が施主側に大きくなる(特に工事経験がないと大変)

 

分離発注の大きな利点は、「電気工事の透明性・柔軟性・専門性」を確保できることです。

ただしその反面、内装業者と電気業者との連携は、発注者自身が責任を持って調整する必要があるため、時間的・労力的な負担はやや大きくなります。

結論:どちらが正解かは「業種・設備・知識量」によって異なる

どちらの依頼方法が優れているということは一概には言えません。

以下のように、ご自身の店舗業態や設備構成、工事の規模、施主自身の知識・管理能力によって適した方式が変わるというのが実際のところです。

【判断基準の例】

・ 初めての出店、工事経験が少ない ⇒ 一括発注が無難

・ 厨房機器や電力管理が複雑 ⇒ 分離発注で専門性を重視

・ 施工期間が短く時間的余裕がない ⇒ 一括で進めて段取りを簡略化

・ 費用の透明性や細かな仕様にこだわりたい ⇒ 分離で納得できる業者を選定

いずれを選択するにしても、重要なのは「配線図面・仕様・設置位置」を施工前に明文化し、すべての関係者と共有しておくことです

そうすることで、一括でも分離でも、施工ミスや行き違いのリスクを最小限に抑えることができます。

 

次章では、店舗電気工事を行う際に「特に注意すべきポイント」について、現場経験に基づいた具体的なチェックリストとともに解説していきます。開業準備中の方にとって、見落とせない内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

 

 

電気工事業者についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご確認ください

電気工事店を選ぶなら知っておきたい!近くと遠方の業者比較と注意点

 

店舗電気工事の際に注意することって何?

成功する店舗づくりには「電気の段取り」がカギを握る

店舗の電気工事は、内装や設備の仕上がりに影響するだけでなく、開店スケジュールや法令対応、安全性にまで大きな影響を及ぼす極めて重要な工程です

しかし実際には、「工事は業者に任せておけば大丈夫」と思い込み、後になってトラブルが発生するケースが非常に多いのが現実です。

ここでは、電気工事を進める際に施主が必ず把握しておくべき重要ポイントを、実務経験に基づいた具体例を交えて詳しく解説します。

注意点 1:電力容量・契約アンペア数の確認を怠らない

まず第一に確認すべきは、テナント区画に供給されている電力容量が、店舗で使用するすべての機器をまかなえるかどうかです。

特に飲食店や美容室などでは、業務用の冷蔵庫、製氷機、加熱機器、ドライヤーなど、消費電力が非常に高い機器が複数同時に稼働するため、契約電流が不足しやすい傾向があります。

【電力不足が原因で起こり得るトラブル】

・ ブレーカーが頻繁に落ちる

・ 冷却機器の動作が不安定になり食材が劣化

・ 電力契約の再申請によりオープンが遅延

・ 追加幹線工事で数十万円のコスト増

このようなリスクを防ぐためには、電気工事業者に事前調査(負荷計算)を依頼し、想定される最大負荷電流に応じて容量アップや動力契約(200V)の検討を行うことが不可欠です。

注意点 2:消防法・建築基準法などの法令を正しく理解する

店舗で使用される電気設備の中には、法的に設置が義務づけられている設備も多数存在します。

たとえば次のような設備が該当します。

【法令対応が求められる主な電気設備】

・ 非常灯(停電時に点灯する照明)

・ 避難誘導灯(避難経路を示す緑色のマーク照明)

・ 火災報知設備(感知器や受信機)

・ 漏電遮断器(漏電ブレーカー)

これらの設備は、消防署の検査で適合と認められなければ、営業許可がおりない可能性があります。

また、設備の設置位置や配線ルートも法令で細かく規定されており、専門知識がない業者が設計・施工を行った場合、不適合となるリスクが高くなるのです。

そのため、消防設備士や有資格の電気工事士が在籍している業者を選定することが、安全で確実な施工のカギとなります。

注意点 3:工事申請や管理会社への届出は早めに行う

テナントビルに入居する場合、電気工事に着手する前に管理会社やビルオーナーへの工事申請が必要となるケースがほとんどです。

【工事申請に関する具体的な確認項目】

・ 共用部の電源を一時的に使用する必要はあるか?

・ 共用部に機器(看板照明や電源盤など)を設置するか?

・ 既設配電盤に改修を加える必要があるか?

・ 作業時間帯の制限や騒音対策はあるか?

これらの申請手続きには、図面・施工計画書・電気設備図・使用機器のカタログなどの提出が必要となり、申請から承認までに1~2週間以上かかることも珍しくありません。

承認が遅れた場合、予定していた工事日に着工できず、他の工種と工程がずれ込み、開業日が遅れるといったリスクにつながるため、工事日が決まる前に申請の段取りを進めておくことが鉄則です。

注意点 4:スイッチ・コンセント・照明配置は図面で事前確定

電気工事は、「壁ができた後」や「什器が搬入された後」では施工が非常に難しくなります。

そのため、工事前の段階でスイッチ・照明・コンセントの正確な位置を図面上で確定させておくことが極めて重要です。

【具体例】

・ レジ横にコンセントがない ⇒ クレジット決済端末が使えない

・ 冷蔵庫の裏側にスイッチがある ⇒ 操作が困難になる

・ 調理機器の専用回路が共用になっている ⇒ 過電流で遮断が発生する

こうした失敗は、すべて「配線設計の不備」や「現場での共有ミス」が原因です。

スイッチやコンセントは、「どこに・何を・どの向きで」設置するのかを明文化し、写真・図面・メモなどで確実に業者と共有することが求められます。

注意点 5:開業スケジュールに余裕を持つ

最後に最も重要なのが、スケジュール管理です。

電気工事は内装工事と同時進行で行われることが多く、1つの工程が遅れると、照明が付かない、冷蔵庫が稼働しない、防犯カメラが使えないといった致命的な問題に直結します。

また、電力会社との契約や引き込み工事には、申し込みからある程度の期間を要するため、事前準備が欠かせません。

【スケジュール遅延の原因例】

・ 図面の変更による再設計や追加工事

・ 消防点検の不適合による是正工事

・ 管理会社の承認待ちによる着工遅れ

・ 繁忙期で業者の手配が困難

開業日から逆算し、最低でも1か月以上前から電気工事の計画を始めることが理想です。

 

このように、店舗の電気工事を円滑に進めるためには、技術的な知識だけでなく、法令対応・図面確認・申請手続き・スケジュール管理など、施主自身が押さえておくべき項目が多岐にわたることがわかります

次の章では、時代とともに進化する「店舗の電気工事の今後」について、最新トレンドや今後の課題、将来的な展望までを解説いたします。どうぞ引き続きご覧ください。

 

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店舗の電気工事って今後どうなっていくの?

時代と共に進化する電気工事 ──「施工」から「戦略」へ

これまで店舗の電気工事は、照明を取り付けて、コンセントを増やして、電源を引くという“施工中心”の業務という印象が強くありました。

しかし近年では、テクノロジーの進化と社会の価値観の変化を背景に、電気工事に求められる役割が大きく変わりつつあります

今後の店舗電気工事は、単に安全に電気を通すだけでなく、省エネ・IoT・セキュリティ・空間デザイン・顧客体験向上といった多面的な目的を達成するための「戦略的な工事」として位置づけられていくと考えられます。

キーワード 1:省エネ・カーボンニュートラルへの対応

環境問題への関心が高まる中、電気工事にも“環境負荷の低減”という観点が強く求められるようになっています。

その中でも注目されているのが、LED照明・高効率空調・センサー制御システムなどを活用した「省エネ型店舗」の構築です。

【省エネ対応が求められる主な設備】

・ LED照明と調光システム(明るさを自動で調整)

・ 人感センサー・昼光センサー(人や光に応じてON/OFF)

・ 高効率エアコンとインバーター制御

・ 電力使用量の見える化(EMS:エネルギーマネジメントシステム)

これらの設備を導入することで、電気料金の削減だけでなく、自治体や国の補助金対象になるケースもあり、初期費用の軽減も可能です。

将来的には、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)基準への対応が中小規模の商業施設にも求められる可能性があり、設計段階から省エネ型インフラを意識した電気工事がスタンダードになっていくでしょう。

キーワード 2:スマート店舗・IoT化の加速

コロナ禍を経て非接触・非対面が進んだことにより、スマート店舗の需要が急速に高まっています。

今後の電気工事では、以下のようなIoT機器との連動を前提とした「通信と電力のハイブリッド設計」が求められるようになります。

【IoT対応電気設備の例】

・ スマートレジやタブレットPOS

・ クラウド連携型セキュリティカメラ

・ AI在庫管理センサーやビーコン

・ スマート照明と音響システムのアプリ制御

・ エアコンや照明の遠隔制御による自動スケジューリング

これらの機器は、通常の電力供給だけでなく、LAN配線やWi-Fi、Bluetoothなどとの干渉対策も必要となり、従来の電気工事では対応が難しい場面も増えています。

そのため今後の店舗電気工事では、電気工事士だけでなくネットワークインフラに精通した技術者や、ITリテラシーの高い業者との連携が不可欠となっていくでしょう。

キーワード 3:顧客体験を高める空間演出としての電気工事

単なる照明やコンセントの設置だけでなく、「どのように空間を演出するか?」という視点も今後の電気工事には欠かせません。

特に以下のような要素が、電気工事と店舗ブランディングの融合を進めています。

【顧客体験を意識した電気工事の進化】

・ エントランスの自動照明や音響効果

・ 季節に応じて色を変えるRGB照明

・ 棚の照明で商品を立体的に見せる工夫

・ アプリ連動でお客様のスマホと同期する光演出

・ BGMと連動するLEDリズム照明

これらはすべて「電気の力」によって実現されるものであり、今後は“デザインの一部としての電気工事”という概念が主流になっていきます。

そのため、デザイナーと電気工事業者が密接に連携するスタイルが今後ますます求められるようになるでしょう。

キーワード 4:保守・点検・サポートのIT化

施工だけでなく、保守点検の在り方も大きく変わりつつあります。

今後の電気工事業者には、「定期点検・遠隔監視・異常通知」などをITで支援できる体制が求められてきます。

たとえば…

・ クラウド型照明制御システムでの稼働モニタリング

・ 防犯カメラの状態を遠隔でチェック

・ 分電盤やブレーカーの異常値をアプリで警告通知

こうした「アフターサポート型の電気工事」への進化は、単なる設置業者から“店舗の運用パートナー”への脱皮とも言えます。

今後の店舗電気工事に求められる新しい力

このような変化を踏まえると、これからの電気工事業者に求められるのは以下のようなスキルです。

【今後の電気工事業者に求められる能力】

項目求められるスキル・対応力
技術力電気工事士としての基礎スキル+ネットワーク配線・IoT対応力
法令・制度理解消防法・建築基準法・ZEB・補助金制度などへの正確な知識
設計・提案力照明演出・省エネ機器の選定・機器配置のアドバイス
顧客体験設計との融合空間デザインと連携した照明・音響・映像の演出技術
継続サポート体制アフター点検・保守・機器トラブル時の迅速な対応

 

今後の店舗づくりにおいて、電気工事は単なる“裏方の作業”ではなく、空間の価値を最大化する“表舞台の主役”としての役割がますます大きくなっていくでしょう

次の最終章では、本記事の総括として「まとめ」をお届けします。これまでの内容をふまえ、店舗の電気工事を成功させるために必要な視点を改めて整理しますので、ぜひ最後までご確認ください。

 

 

電気工事の未来についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご確認ください

電気工事の未来とは?最新技術と産業構造の変化にどう対応するか

 

まとめ

店舗電気工事は“設備”ではなく“戦略”であるという視点を

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

本記事では「店舗における電気工事」について、基礎から応用、実務上の注意点、そして未来の展望までを幅広く解説してきました。

あらためて重要なポイントを振り返ると、店舗の電気工事とは単なる配線や照明の設置作業ではなく、店舗の営業活動・ブランディング・顧客体験・省エネ対策・IT対応といった“店舗運営全体”を支える戦略的インフラ整備であるということが見えてきます

成功のカギは「準備・設計・業者選定」

電気工事を成功させるためには、以下の3つの要素が極めて重要です。

【店舗電気工事の成功に必要な要素】

・ 事前準備:電力容量、必要設備、スイッチやコンセントの配置をしっかりと把握し、申請手続きやスケジュールを前倒しで進める

・ 設計力:単に動かすための配線ではなく、空間演出、業務効率、安全性、法令対応までを見据えた「全体設計」が必須

・ 業者選び:安さや速さだけでなく、専門知識、法令知識、提案力、アフター対応力を持つ「信頼できる電気工事業者」に依頼する

この3つの視点を持ってプロジェクトを進めることで、トラブルや想定外の追加工事を最小限に抑え、予定通り・予算内で・理想の店舗を完成させることが可能になります。

時代は“スマート”へ、店舗電気工事も変化の時代に突入

また、今後の店舗電気工事は、IoT化や脱炭素社会への対応、省エネ機器導入や通信インフラ整備など、ますます複雑化・高度化していくことが予想されます

その中で必要とされるのは、単に“工事ができる人”ではなく、「空間の未来をデザインできる電気工事のプロフェッショナル」です。

今後、電気工事業者は“施工者”ではなく、「電気の戦略パートナー」として、企画段階から設計・施工・保守までを一貫してサポートできる存在になっていくことでしょう。

最後に

これから店舗を立ち上げようとしている方、既存店舗をリニューアルしようと考えている方にとって、電気工事は決して見過ごせない重要な要素です。

どんなに魅力的な商品を並べても、照明が暗ければ売れない。

どんなに高性能な機器を導入しても、電源が不安定では稼働しない。

だからこそ、「電気工事=経営の土台」と考え、十分な準備と的確なパートナー選びを行うことが、長く安定した店舗運営への第一歩です

今後も時代の変化に柔軟に対応しながら、“お客様に選ばれる店舗”を電気の力で支えるための最適な選択をしていきましょう。

ご拝読ありがとうございました。

 

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