電気工事を元請として請負う際に注意することって何?
「請けた責任」を果たすために──元請に求められる覚悟
電気工事を元請として請負うということは、単に仕事の範囲が広がるだけではなく、工事全体の結果に対して法的・社会的・技術的な責任を持つということを意味します。
つまり、契約の主体である元請は、施主・発注者からの信頼を守るために、自社と下請業者、すべての行動に責任を持つ立場になります。
ここでは、電気工事の元請業務において、特に重要な注意点を5つの側面から具体的に解説していきます。
1. 契約の明確化と範囲の線引き
元請業者として最も注意すべき点のひとつが、「契約書の内容と範囲の明確化」です。
発注者と締結する工事請負契約書には、金額・工期・作業範囲・支払い条件・瑕疵担保責任・遅延損害金など、法的に有効な条文が記載されます。
【具体的な注意点】
・ 曖昧な表現は極力避け、「含む/含まない工事」を明記
・ 設計変更や仕様追加が発生した場合の対応ルールを記載
・ 工期遅延時の責任範囲や罰則(遅延損害金)を確認
これらを曖昧なまま契約すると、トラブル発生時に不利な立場に追い込まれる危険性があります。
契約段階での「丁寧なすり合わせ」と「文書化」が、元請の基本責任として非常に重要です。
2. 工程・進捗・現場の「見える化」とマネジメント
元請業者は、工事現場の進行を日単位・週単位で管理・調整する役割を担います。
複数の業者が関わる中で、電気工事が他の作業と干渉しないよう、事前調整と現場マネジメントが求められます。
【具体的なマネジメント項目】
・ 工程表の作成と現場掲示
・ 朝礼や定例会議による情報共有
・ 資材搬入のスケジュール調整
・ 他業種(大工、内装、空調など)との干渉回避
・ 検査、是正処置、引き渡しの段取り調整
現場がスムーズに進行するかどうかは、元請の段取り次第で大きく左右されるため、先を読む力と柔軟な対応力が試されるポイントとなります。
3. 安全管理と労働災害への対応
建設現場では、労働災害の発生リスクが常に存在します。
特に電気工事では、感電や高所作業による落下、重量物の落下など、重大事故につながる危険が多く潜んでいます。
元請としては、これらを防止するために、安全管理の仕組みを事前に設計し、現場で徹底する義務があります。
【主な安全管理の実務】
・ 現場ルールの事前説明と書面交付(作業手順書など)
・ KY活動(危険予知活動)の実施と記録
・ 保護具の着用指導(ヘルメット、安全帯、絶縁手袋など)
・ 安全書類の管理(労災保険、健康診断、施工体制台帳)
・ 緊急時の対応マニュアル作成と共有
労災が発生した場合、元請が安全配慮義務を怠っていたと判断されれば、損害賠償請求や行政処分の対象となる可能性もあります。
4. 下請業者との信頼関係と公正な取引
元請と下請の関係が円滑でなければ、現場の統一感は失われ、工程や品質に影響が出る恐れがあります。
そのため、下請業者とは単なる「仕事の発注先」ではなく、“共にプロジェクトを成功させるパートナー”としての信頼関係を構築する必要があります。
【元請に求められる姿勢】
・ 支払期日を遵守し、資金繰りに配慮する
・ 無理な単価交渉や不当な仕様変更を避ける
・ 定例ミーティングを設け、情報共有を行う
・ 苦情や問題が出た場合は即座にヒアリングし改善する
こうした取り組みによって、協力会社との長期的な関係性が生まれ、信頼される元請企業としての評価が高まります。
5. 近隣対応とクレーム予防の意識
工事現場では、騒音・振動・車両の出入り・通行の妨げなどが近隣住民とのトラブルになることもあります。
そのため、元請は現場周辺の住民・施設との関係性にも十分配慮しなければなりません。
【近隣対応で注意すべき点】
・ 工事開始前の近隣あいさつや説明文の配布
・ 作業時間帯や騒音発生源への配慮
・ 作業車両の誘導員配置と駐車スペースの確保
・ 苦情があった場合の即時対応と報告書作成
・ 撤去後の清掃や後処理の丁寧さ
元請の評判は、「現場での仕上がり」だけでなく「地域住民との接し方」でも左右されます。
社会的責任の一環として、クレーム予防も“現場マネジメントの一部”と認識しておくことが重要です。
元請としての成功は「管理力」と「信頼力」が鍵
電気工事を元請として請け負う際には、技術力だけでなく、契約管理・現場調整・安全配慮・人間関係構築などの“総合的な管理能力”が必要不可欠です。
そして、どんなに高い施工能力があったとしても、施主・協力会社・近隣住民からの“信頼”が得られなければ、元請として長く継続的に案件を獲得することは困難です。
元請業者としての道を歩むには、常に誠実な対応と徹底した管理を意識し続けることが、企業としての成長と信頼構築の礎となるのです。
次の章では、そうした元請体制を整えた電気工事業界が、今後どのような時代の変化やチャンスに直面するのか?
未来を見据えた展望を解説していきます。
▼ 見積書や請求書の作成ソフトの導入をお考えの方はコチラをチェック ▼

電気工事の請負って今後どうなっていくの?
電気工事業界は「転換期」を迎えている
これまでの電気工事は、照明やコンセント、配線工事を中心とした「必要不可欠なインフラの整備」という役割が主でした。
しかし近年、社会全体のデジタル化・脱炭素化・少子高齢化といった大きな時代の流れの中で、電気工事の在り方そのものが変化してきています。
そのため、これからの電気工事業界には、従来通りの仕事のやり方では対応しきれない場面が多くなり、新しい知識・技術・マネジメントの導入が必須となるでしょう。
注目されるキーワードは「再生可能エネルギー」「DX化」「省人化」
以下のようなキーワードが、今後の電気工事請負業務の方向性を示す重要な要素となります。
【今後の電気工事に影響を与える社会的キーワード】
これらの要素を踏まえると、電気工事の元請業者には、「施工力+設計力+提案力」の3要素が求められる未来が確実にやってきます。
技術力だけでなく「コンサル型」元請業者が求められる時代に
今後の元請業者には、単に「施工をまとめる」だけでなく、「どう設計し、どう使うか」を提案するコンサルティング型の役割が求められます。
特に、以下のような分野では、専門的なアドバイスができる電気工事会社が重宝されます。
【元請に求められる新しい能力】
・ 省エネ設計:LED化、人感センサーの導入、空調制御の提案
・ 通信設計:IoT機器に対応したLANやWi-Fi環境の構築提案
・ エネルギー提案:太陽光+蓄電池+EV充電器のトータル設計
・ BCP対策:停電時の電源確保、非常用発電機の導入支援
・ セキュリティ:防犯カメラや入退室管理システムの設計と運用提案
つまり、発注者は「工事ができる業者」ではなく、「相談できるパートナー」を求めるようになっているのです。
このようなニーズに応えることができる元請業者は、今後ますます選ばれやすくなります。
元請になることで、未来の市場にいち早く乗れる
ここまでの話を総合すると、これからの電気工事業において「元請」というポジションにいることは、未来の成長分野にいち早く関与できる立場を得ることを意味します。
たとえば、以下のような分野は、2025年以降も市場拡大が予想されています。
【今後も伸びる電気工事市場の例】
・ ZEH住宅(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)関連の電気設備
・ EVやV2H(車から家への電力供給)設備の設計と施工
・ 工場や施設のエネルギーマネジメントシステム(EMS)導入
・ 高齢者施設向けの見守りセンサー、ナースコール、電源設計
・ オフィスのテレワーク対応インフラ(LAN、セキュリティ、給電計画)
これらの案件は、「単価が高く」「提案力が重要」「元請が直接相談を受ける」傾向が強いため、元請としての体制がなければチャンスを逃す可能性が高くなります。
元請としての未来像を描くことが生き残りの鍵
電気工事の請負業務は、これからの時代においても確実に必要とされるインフラ整備の中心的存在です。
しかし、その形態や価値は「ただ施工するだけ」から「提案し、設計し、統括する」立場へとシフトしています。
・ 再生可能エネルギーやスマート設備の設置
・ 複雑化する通信環境への対応
・ 労働力不足を補う省人化や効率化の提案
・ サステナブル建築との整合性ある電気設計
これらの新たなニーズに対応するには、「元請」というポジションで主体的に動くことが不可欠です。
自社の未来像をどう描くか。
どの分野に注力し、どんなチームを育てていくか。
そのビジョンを明確にすることが、次世代の電気工事会社として生き残るための最大の戦略になると言えるでしょう。
次の見出し「まとめ」では、これまでの全体を振り返り、元請として電気工事を請け負うことの意義と今後の指針を、簡潔かつ明確に整理してお伝えします。

★ 電気工事士の将来や今後の需要について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご確認ください
電気工事士はオワコンじゃない!将来性と今後の需要を徹底解説